日本のレアアース開発の最大の敵は経済産業省だった?

日本のレアアース開発の最大の敵は経済産業省だった?

スマホ、エアコン、ハイブリッドカーなど、ハイテク製品の部品に必要な鉱物資源レアアース(希土類)。これまでは世界シェア首位の中国にやりたい放題やられてきたが、昨年6月の調査によって、実は日本の近海にも大量に眠っていることがわかった!

■世界の産出量の97%を中国が握る

「これは想像を絶する夢の濃度です。必ずや日本の福音になる」

昨年6月、南鳥島沖の海底で、世界最高濃度のレアアース(希土類)を豊富に含む泥の層を発見した東京大学大学院工学系研究科の加藤泰浩教授はそう話す。

レアアースとはランタンやネオジムなど17種類の元素の総称。1794年、スウェーデンの小さな村で最初に発見され、『まれな(rare)土(earth)』と名づけられ、今では「ハイテク産業のビタミン」とも呼ばれる。

「材料に少し混ぜるだけでその本来の性質を一変させるためです。レアアースを生かした素材で有名なのがネオジム磁石。“世界最強”ともいわれるこの磁石はハイブリッドカーの駆動モーターに1kgほど入っていて、これがなければ製品化は不可能ともいわれます」(加藤教授)

ほかにも、スマホ、エアコン、デジカメ、DVDから風力発電の発電機まで、あらゆるハイテク機器に含まれている。レアアースはまさにハイテク技術を売りにする日本の“生命線”なのだ。

ところが、その世界の産出量の97%を中国が握っている……。

「レアアースが濃集する鉱山は世界中に分布していますが、ウランやトリウムといった放射性元素が共在し、それがネックとなって鉱山開発を断念するケースが大半。そんななか、規制が緩い中国では80年代から国策で鉱山開発が進められてきたのです」(加藤教授)

中国、恐るべし!

「その後、中国はなりふり構わぬ値下げ攻勢を仕掛け、コストで太刀打ちできない他国のレアアース鉱山は次々と閉山に追い込まれていきました」(加藤教授)

こうして市場を独占すると、中国は価格をつり上げてきた。

「中国産レアアースの輸出価格は輸出税の課税や増税で上昇し、国内の流通価格の倍ほどに。そして、2010年9月に起きた尖閣諸島沖での中国漁船衝突事故の報復措置として日本への輸出全面禁止に踏み切り、それ以降、輸出価格は最高40倍にもなった」(加藤教授)

価格暴騰にあえぐ日本企業は工場を中国に移転するほかなかった。

「『レアアースが必要なら、中国に工場を造れ』と要求されたからです。これによってスマホ用タッチパネルガラスや高級カメラレンズなど、日本のハイテク製品の製造拠点が中国に移転する流れができてしまいました」(加藤教授)

中国側の狙いは?

「最終的には、中国に工場を移した海外のハイテク企業の技術を盗み取ることにあります。資源と技術の両方を握られたら、日本の将来は完全に断たれてしまう。私は研究者としてその点に強い危機感を覚えました」(加藤教授)

■南鳥島沖の資源量は230年以上分!

中国の独占体制を根本から変えるためにも、日本は自国でのレアアース確保が喫緊(きっきん)の課題となった。加藤教授はこう打ち明ける。

「私たち(東大研究チーム)はひそかに太平洋の海底泥の研究を進め、タヒチ沖などに眠るレアアースを豊富に含んだ泥の存在をつかんでいました。そのデータから、日本の小笠原諸島の南鳥島沖にも同じ成分の泥が存在することを確信していたのです」

事実、昨年6月に加藤教授は日本の排他的経済水域としては初めて、南鳥島沖でレアアースを発見。さらに「水深5000m超の海底から採取した泥を分析するとレアアースが最大約6600ppmの濃度で含まれていました。これは中国の鉱床の10倍以上。この高濃度の泥が少なくとも1000平方kmの範囲に広がっている可能性があることも突き止めた」(加藤教授)という。

その埋蔵量が素晴らしい。

「計算上では、国内消費量の230年分以上です」(加藤教授)

南鳥島沖のレアアース泥の利点について、加藤教授が説明する。

「高濃度なだけではなく、レアアースの抽出が非常に簡単。海底から採掘した泥を1時間ほど薄い酸に浸しておくだけで自然と分離します。中国の鉱床では泥に酸をつけてもそこに含まれるレアアースの50%ほどしか取り出せないが、レアアース泥からは90%以上。抽出が簡単でムダのない分、より商業化しやすいということです」

最大の長所はこれだ。「レアアース泥は、陸上のレアアース鉱床の最大の欠点であった放射性元素をほとんど含みません。トリウム含有量でみると、川原に転がっている石ころと同程度。ほとんど含まないといってもいいレベルです」(加藤教授)

膨大な資源量で、レアアースを取り出しやすく、放射能リスクはほぼ皆無。すぐにでも実用化できそうだが、このレアアース泥は水深5000m超の海底にある。世界を見渡しても水深5000mを超える深海から鉱物資源を引き揚げた前例はないとのことだが……。

「実は採取法については今、産学連携で研究を進めています。母船から海底に掘削パイプを下ろし、そこに圧縮した空気を送り込んで泥を吸い上げる方式で、海底油田から石油を引き揚げる既存技術を少し改良したもの。コンピューターを使ったシミュレーションでは成功しており、あとは実証実験を残すのみ、という段階まできてはいますが……」(加藤教授)

ここで初めて加藤教授が表情を曇らせた。どうしたのか?

「実証実験やレアアースの事業化には国の予算措置が必要ですが、依然として鈍いと言わざるを得ません。中心となって推進すべき立場にある経済産業省が『まだまだ研究段階』とか『時期尚早』とか言っているうちに、海外に先を越されてしまうかもしれません。レアアースの泥は南鳥島沖だけにあるわけではなくて、タヒチ沖のフランスの排他的経済水域やハワイ周辺海域にもあるんですから。国内で内輪もめしてもたついている間に、タヒチ沖で中国とフランスがいち早く共同開発する可能性だって否定できません」

そんなスピード感のなさが日本のレアアース開発の最大の妨げになっている。

「ただ、それらの要因を抜きに考えると、泥の採掘の実証実験に2年、同時進行で海底探査に1、2年。成功すれば、あとの製錬や加工は既存の技術で対応できます。早くて5年後には生産が始まり、国産レアアースを積んだプリウスが道路を走っているかもしれません」(加藤教授)

すべては国のやる気次第だ。                                                   YAHOOニュース より抜粋